
□ 吉田利江 (公財・鉄の歴史村地域振興事業団和鋼開発係 主任研究員)
加計隅屋鉄山絵巻の魅力
隅屋鉄山絵巻が公開される。 このニュースに驚きつつ、私は興奮した思いに包まれている。
3年前、私の勤務する事業団では、
鉄の歴史村フォーラム2009で中国山地のたたら製鉄をテーマに講演会を開催し、
山口県文書館の山口一郎先生に安芸地域の事例についてお話しいただいた。
その時に隅屋鉄山絵巻と出会った。
産業としてたたら製鉄が行われていた時の様子を忠実に表した唯一無二の逸品である。
文書としては伯耆の鉄山経営者下原重仲が著した「鉄山必用記事」が存在するが、
万人が目で見た瞬間に鉄山の仕事を理解できる絵として、
たたらが遺された意義は極めて大きい。
デジカメも携帯もない時代に、鉄山の一瞬一瞬を見事に切り取っている。
この絵巻が史実に基づいて書かれているいわゆる正確さを表す例えとして、
よく引き合いに出されるのが、大鍛冶場の場面である。
このことは3年前に山ア一郎先生に教えていただいた。
大鍛冶は銑や歩ヒを加熱・鍛打し、脱炭し地鉄をつくる工程で、
鉄山の中で銑やヒの付加価値を高め、流通させるため不可欠な工程である。
一般に鍛冶屋というと、鋼材から刃物などをつくることをいうが、
鉄山の内では、道具を作る鍛冶は小鍛冶と呼んでいて、鍛冶屋は大鍛冶を指していた。
大鍛冶の作業は大工と呼ばれる職長と4人の向鎚(槌)が行った。
大工は加熱された鉄塊を火箸で保持し金床に載せ、脱炭・成形する。
向鎚は一人一人が柄の長い金鎚を持ち、大工の合図のもと、
金床の中心をひたすら正確に打つ。
4人は一つのチームで一糸乱れぬ鎚さばきで、
少ない鎚数で一本の包丁鉄・割鉄を仕上げていく。
鎚角が当たるなどはもってのほかである。(商品価値が下がる) 向鎚に左利きがいると、
よりスムーズなコンビネーションが可能になり作業性が上がるが、
隅屋鉄山絵巻ではきちんと左利きの向鎚が描かれている!
前述した「鉄山必用記事」にも、左利きの向鎚のほうが給料が高いという記述もあるので、
この絵巻は現場をよく理解した方によって描かれたと言えるし、
一流の職人を揃えていた加計家の経営力が伺えるのではないか。
現場の作業と、それに従事する職人たちの作業や肉体までも正確に描かれていることから、
一般の人は目にすることができなかった作業場の臨場感や緊張感、
躍動感を絵巻は語っている。
私はこの正確さこそ、隅屋鉄山絵巻の最大の魅力と感じている。
私自身、主要な部分以外は絵巻をモノクロでしか見たことがないので、
今後、安芸太田町および広島県、日本製鉄史の貴重な財産として活用し、
公開していく道筋ができることを切に願っている。

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posted by fuuen at 21:54|
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